せむしの小馬 (RONSO fantasy collection)/論創社
![]()
¥1,296
Amazon.co.jp
ピョートル・パーヴロヴィチ・エルショフ『せむしの小馬』(論創社)を読みました。
少し前に、トルストイの民話「イワンのばか」を紹介しましたが、ばかのイワンというキャラクターそのものは、元々ロシア民話でお馴染みの人物。というわけで、他の作品にもばかのイワンは登場します。
中でも有名なのが、バレエになったりアニメになったりしている『せむしの小馬』。ばかのイワンが主人公で背骨が曲がった小馬と共に大冒険をくり広げる、とてもファンタジックでわくわくする物語です。
翻訳としては、岩波少年文庫に網野菊訳がありますが、差別用語として近年では使われない「せむし」が何かにひっかかるのか、そもそもあまり人気がなかったのか、現在は入手困難な状況になっています。
せむしの小馬 (岩波少年文庫 (1017))/岩波書店
![]()
¥630
Amazon.co.jp
2006年に「論創ファンタジー・コレクション」の一冊として刊行されたのが、今回紹介する田辺佐保子訳。Yu・ワスネツォフの挿画も味があっていいですし、120ページほどの読みやすい作品です。
訳者あとがきによると、『せむしの小馬』は1834年、エルショフが19歳、ペテルブルグ大学の学生だった時に発表されたものだそうです。その後は故郷トボリスクで、母校の中学の先生になったとか。
『せむしの小馬』は、ジャンルとしては創作民話、形式は物語詩になります。物語詩の雰囲気はなんとなく翻訳でも伝わって来るものがあり、普通の小説に比べて、ざっくりしていて、明るい感じが魅力的。
子供の読者なら、単純にストーリーにわくわくさせられると思いますが、大人の読者なら「どうしてロシアでこの物語が書かれたか」その当時の人々に何が求められていたかを考えてみても面白いでしょう。
また、『せむしの小馬』は「火の鳥」にまつわるロシア民話もモチーフにしているので、興味のある方はぜひ、やはり同じように輝く鳥をめぐって冒険するグリム童話「金の鳥」と読み比べてみてください。
白雪姫 (新潮文庫―グリム童話集 (ク-1-1))/新潮社
![]()
¥562
Amazon.co.jp
グリム童話「金の鳥」の主人公も三男坊で、『せむしの小馬』のアドバイザー的な小馬の役割を「金の鳥」ではキツネがはたしています。
こんな書き出しで始まります。
小麦を育てて暮らしていた一家でしたが、何者かが畑にやって来て小麦を踏み荒らすようになってしまったので、大弱り。夜ごとに寝ずの番をして、穀物泥棒を捕まえようじゃないかという話になりました。
まずは長男のダニーロがその役をつとめますが、臆病風に吹かれて乾し草置場に隠れてぶるぶる震えるばかり。その癖みんなの前ではしっかり寝ずの番をつとめたと自慢します。続いては次男のガヴリーロ。
ガヴリーロも怯えて逃げ出し、自分の家とお隣の家とを行ったり来たりうろうろしていたただけ。それでもみんなの前では立派に役目を果たしたと言い張るのでした。そして最後に三男イワンが出かけます。
星を数えたり、パンを食べたりしていたイワンは、金色のたてがみを持つ牝の馬が畑にやって来たのに気付き「ひょいっとひとっ飛び、おまえの首っ玉に乗っかってみせるからな」(9ページ)と思います。
しかし馬の背に飛び乗ったはいいものの、後ろ向き。牝馬はイワンを振り落とそうとしますが、イワンはしっかり尻尾の根元を握りしめて離さなかったのでした。牝馬はついにくたびれて、音をあげました。
イワンを主人として認めた牝馬は、三日間大切に世話をしてくれたなら、三頭の馬を生んであげると言います。見たこともない素晴らしい馬を二頭と、背が小さい上に背中にこぶがあり耳が長い小馬を一頭。
帰って来たイワンが、髭もじゃの魔物が現れて、その魔物をこらしめてやったと話したので、みんなは大笑い。イワンは掘っ立て小屋で三頭の馬と、愉快な時を過ごしていましたが、兄二人に見つかります。
ダニーロとガヴリーロはイワンに黙って、金色の毛を持ち、ダイヤと大粒の真珠が散りばめられた蹄をもつ二頭の立派な馬を都に売りに行くことを決めました。イワンは、馬がいなくなったので悲しみます。
するとまるで玩具のような体つき、両耳でぱたぱたと床を叩き、床を踏み鳴らして踊っていたせむしの小馬(コニョーク・ゴルブノーク)が「嘆くのはお止めよ、イワン」(19ページ)と言ったのでした。
小馬は、立派な二頭の馬を盗んだのはイワンの兄たちであること、背丈こそ小さいが、走り出したら自分はどんな馬にも負けないと言ったのです。イワンを乗せた小馬は、ものすごい勢いで走り出しました。
そうして兄たちを見つけ出したイワンと小馬でしたが、自分たちの貧しい暮らしをなんとかするため、そして何よりも年老いて病気がちな父親のためにお金が必要だと言われれば、納得するしかありません。
そこで一緒に都へ向かい始めましたが、遠くに火が見えたので、兄二人はあの火はなんだろうとイワンに言いました。おそらくは盗賊らの集まりであり、そこでイワンは殺されてしまえばいいと思ったから。
小馬に飛び乗ったイワンはすごい速さで火に向かいます。するとそこは昼間のように明るいのに不思議なことに暖かくもなければ、煙もあがっていないのでした。これは一体何事だろうとイワンは思います。
二頭の馬は皇帝の目に止まり、大金を手にした二人の兄は故郷へ帰ると嫁を迎え、のどかに暮らします。一方イワンは、二頭の馬がイワンの言うことしかきかないので、皇帝の馬丁頭として働き始めました。
ところが、イワンが来るまでは馬屋を取り仕切っていた側仕えが恨みを抱き、皇帝にあることないこと悪口を吹き込むようになってしまったから、さあ大変。しかも火の羽根が見つかったのが大きな問題に。
イワンは三週間の内に火の鳥を捕まえて来なければ杭刺しの刑に処せられることになってしまったのでした。イワンが戻ってきたので踊らんばかりに喜んだ小馬は、イワンが泣いていたので、悲しがります。
話を聞いた小馬はだから羽根は拾わない方がよかったのにと言いながらも、「こんな仕事は、仕事のうちに入らない。まだ先に、もっと大変な仕事が控えているのです。」(53ページ)と言ったのでした。
火の鳥を捕まえるために旅立ったイワンと小馬。しかしその他にも母親がお月さま、兄がお日さまのお姫さまを連れて来ること、海の中から指輪を見つけてくることなど、様々な難題をつきつけられて……。
はたして、困難に立ち向かっていくイワンと小馬の運命はいかに!?
とまあそんなお話です。主人公に突然難題がつきつけられる→思いも寄らぬ存在の力を借りてそれをクリアする、しかも、それが何度も繰り返されるというのは童話ではもう、お馴染みのパターンですよね。
あとはそのお約束の設定に、どれだけわくわくさせられるかですが、火の鳥や不思議なお姫様、そして指輪をめぐるエピソードなど『せむしの小馬』はかなり心躍る設定や展開になっていて面白かったです。
どんな困難を前にしても、「こんな仕事は、仕事のうちに入らない。まだ先に、もっと大変な仕事が控えているのです」と言う小馬。イワンにこの先、一体どんな運命が待ち受けているというのでしょうか。
単純なストーリーなので子供が楽しめるのはもちろんのこと、ファンタジックな世界観や見た目は悪いけれど愛らしい小馬には大人の心もきっと動かされるはず。興味を持った方はぜひ読んでみてください。

¥1,296
Amazon.co.jp
ピョートル・パーヴロヴィチ・エルショフ『せむしの小馬』(論創社)を読みました。
少し前に、トルストイの民話「イワンのばか」を紹介しましたが、ばかのイワンというキャラクターそのものは、元々ロシア民話でお馴染みの人物。というわけで、他の作品にもばかのイワンは登場します。
中でも有名なのが、バレエになったりアニメになったりしている『せむしの小馬』。ばかのイワンが主人公で背骨が曲がった小馬と共に大冒険をくり広げる、とてもファンタジックでわくわくする物語です。
翻訳としては、岩波少年文庫に網野菊訳がありますが、差別用語として近年では使われない「せむし」が何かにひっかかるのか、そもそもあまり人気がなかったのか、現在は入手困難な状況になっています。
せむしの小馬 (岩波少年文庫 (1017))/岩波書店

¥630
Amazon.co.jp
2006年に「論創ファンタジー・コレクション」の一冊として刊行されたのが、今回紹介する田辺佐保子訳。Yu・ワスネツォフの挿画も味があっていいですし、120ページほどの読みやすい作品です。
訳者あとがきによると、『せむしの小馬』は1834年、エルショフが19歳、ペテルブルグ大学の学生だった時に発表されたものだそうです。その後は故郷トボリスクで、母校の中学の先生になったとか。
『せむしの小馬』は、ジャンルとしては創作民話、形式は物語詩になります。物語詩の雰囲気はなんとなく翻訳でも伝わって来るものがあり、普通の小説に比べて、ざっくりしていて、明るい感じが魅力的。
子供の読者なら、単純にストーリーにわくわくさせられると思いますが、大人の読者なら「どうしてロシアでこの物語が書かれたか」その当時の人々に何が求められていたかを考えてみても面白いでしょう。
また、『せむしの小馬』は「火の鳥」にまつわるロシア民話もモチーフにしているので、興味のある方はぜひ、やはり同じように輝く鳥をめぐって冒険するグリム童話「金の鳥」と読み比べてみてください。
白雪姫 (新潮文庫―グリム童話集 (ク-1-1))/新潮社

¥562
Amazon.co.jp
グリム童話「金の鳥」の主人公も三男坊で、『せむしの小馬』のアドバイザー的な小馬の役割を「金の鳥」ではキツネがはたしています。
作品のあらすじ
こんな書き出しで始まります。
さて、お話のはじまり、はじまり。
いくつも山を越え、
いくつも森を越え、
いくつも大海原を越えた辺り、
天上ではなくて、この地上の、
とある村に爺さんが住んでいた。
爺さんには息子が三人あった。
いちばん上の息子は利口で、たくましい若者。
二番目の息子はまずまずといった若者。
ところが一番末の息子というのは、
まるっきりお馬鹿さんだった。(2ページ)
小麦を育てて暮らしていた一家でしたが、何者かが畑にやって来て小麦を踏み荒らすようになってしまったので、大弱り。夜ごとに寝ずの番をして、穀物泥棒を捕まえようじゃないかという話になりました。
まずは長男のダニーロがその役をつとめますが、臆病風に吹かれて乾し草置場に隠れてぶるぶる震えるばかり。その癖みんなの前ではしっかり寝ずの番をつとめたと自慢します。続いては次男のガヴリーロ。
ガヴリーロも怯えて逃げ出し、自分の家とお隣の家とを行ったり来たりうろうろしていたただけ。それでもみんなの前では立派に役目を果たしたと言い張るのでした。そして最後に三男イワンが出かけます。
星を数えたり、パンを食べたりしていたイワンは、金色のたてがみを持つ牝の馬が畑にやって来たのに気付き「ひょいっとひとっ飛び、おまえの首っ玉に乗っかってみせるからな」(9ページ)と思います。
しかし馬の背に飛び乗ったはいいものの、後ろ向き。牝馬はイワンを振り落とそうとしますが、イワンはしっかり尻尾の根元を握りしめて離さなかったのでした。牝馬はついにくたびれて、音をあげました。
イワンを主人として認めた牝馬は、三日間大切に世話をしてくれたなら、三頭の馬を生んであげると言います。見たこともない素晴らしい馬を二頭と、背が小さい上に背中にこぶがあり耳が長い小馬を一頭。
二頭の馬は売りたくなったら売ることです。でも小馬だけは手放してはいけません。帯をやろうと言われても、帽子と替えてやろうと言われても、滅多とない黒の繋ぎ骨の遊び道具をやろうと言われても、決して渡してはだめ。その小馬はあなたが地の上、地の下、どこにいようとも、あなたの友達になってくれます。寒い冬にはあなたを温め、暑い夏には涼風を起こしてくれます。お腹が空けばパンをくれ、のどが渇けば蜂蜜をいくらでも飲ませてくれるのです。(10~11ページ)
帰って来たイワンが、髭もじゃの魔物が現れて、その魔物をこらしめてやったと話したので、みんなは大笑い。イワンは掘っ立て小屋で三頭の馬と、愉快な時を過ごしていましたが、兄二人に見つかります。
ダニーロとガヴリーロはイワンに黙って、金色の毛を持ち、ダイヤと大粒の真珠が散りばめられた蹄をもつ二頭の立派な馬を都に売りに行くことを決めました。イワンは、馬がいなくなったので悲しみます。
するとまるで玩具のような体つき、両耳でぱたぱたと床を叩き、床を踏み鳴らして踊っていたせむしの小馬(コニョーク・ゴルブノーク)が「嘆くのはお止めよ、イワン」(19ページ)と言ったのでした。
小馬は、立派な二頭の馬を盗んだのはイワンの兄たちであること、背丈こそ小さいが、走り出したら自分はどんな馬にも負けないと言ったのです。イワンを乗せた小馬は、ものすごい勢いで走り出しました。
そうして兄たちを見つけ出したイワンと小馬でしたが、自分たちの貧しい暮らしをなんとかするため、そして何よりも年老いて病気がちな父親のためにお金が必要だと言われれば、納得するしかありません。
そこで一緒に都へ向かい始めましたが、遠くに火が見えたので、兄二人はあの火はなんだろうとイワンに言いました。おそらくは盗賊らの集まりであり、そこでイワンは殺されてしまえばいいと思ったから。
小馬に飛び乗ったイワンはすごい速さで火に向かいます。するとそこは昼間のように明るいのに不思議なことに暖かくもなければ、煙もあがっていないのでした。これは一体何事だろうとイワンは思います。
小馬がイワンに言うことには、
「そうら、摩訶不思議なこの光景の原因を知りたけりゃ、あそこをごらんなさい。こんなに明るいのは、火の鳥が落としていった、ほら、あの羽根のせいなのさ。だけど、我が身が可愛いならば、あの羽根を拾ってはいけないよ。あの羽根は数々の禍をもたらすものだから」
「何を言うんだ。これが拾わずにいられるかって!」
お馬鹿なイワンは独り言を呟いて、火の鳥の羽根を拾い上げると、布切れにくるんだ。それから帽子の中に押し込むと、小馬の向きを帰して、さっきの場所へ戻って行った。(26ページ)
二頭の馬は皇帝の目に止まり、大金を手にした二人の兄は故郷へ帰ると嫁を迎え、のどかに暮らします。一方イワンは、二頭の馬がイワンの言うことしかきかないので、皇帝の馬丁頭として働き始めました。
ところが、イワンが来るまでは馬屋を取り仕切っていた側仕えが恨みを抱き、皇帝にあることないこと悪口を吹き込むようになってしまったから、さあ大変。しかも火の羽根が見つかったのが大きな問題に。
イワンは三週間の内に火の鳥を捕まえて来なければ杭刺しの刑に処せられることになってしまったのでした。イワンが戻ってきたので踊らんばかりに喜んだ小馬は、イワンが泣いていたので、悲しがります。
話を聞いた小馬はだから羽根は拾わない方がよかったのにと言いながらも、「こんな仕事は、仕事のうちに入らない。まだ先に、もっと大変な仕事が控えているのです。」(53ページ)と言ったのでした。
火の鳥を捕まえるために旅立ったイワンと小馬。しかしその他にも母親がお月さま、兄がお日さまのお姫さまを連れて来ること、海の中から指輪を見つけてくることなど、様々な難題をつきつけられて……。
はたして、困難に立ち向かっていくイワンと小馬の運命はいかに!?
とまあそんなお話です。主人公に突然難題がつきつけられる→思いも寄らぬ存在の力を借りてそれをクリアする、しかも、それが何度も繰り返されるというのは童話ではもう、お馴染みのパターンですよね。
あとはそのお約束の設定に、どれだけわくわくさせられるかですが、火の鳥や不思議なお姫様、そして指輪をめぐるエピソードなど『せむしの小馬』はかなり心躍る設定や展開になっていて面白かったです。
どんな困難を前にしても、「こんな仕事は、仕事のうちに入らない。まだ先に、もっと大変な仕事が控えているのです」と言う小馬。イワンにこの先、一体どんな運命が待ち受けているというのでしょうか。
単純なストーリーなので子供が楽しめるのはもちろんのこと、ファンタジックな世界観や見た目は悪いけれど愛らしい小馬には大人の心もきっと動かされるはず。興味を持った方はぜひ読んでみてください。