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エルモア・レナード『ラム・パンチ』

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ラム・パンチ (角川文庫)/角川書店

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エルモア・レナード(高見浩訳)『ラム・パンチ』(角川文庫)を読みました。残念ながら、現在は絶版のようです。

”タランティーノの映画みたい”という形容が成り立つくらい、クエンティン・タランティーノ監督の作品は、独特の個性を放っています。

デビュー作の『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』では、どこかずれていて憎めない悪党たちが登場し、視点や時系列がばらばらでまったく予想のつかない展開が熱狂的な人気を呼びました。

暴力的でありながら、どこかスタイリッシュな作風を持つタランティーノ監督が、敬愛している作家こそエルモア・レナードなんです。オフ・ビートなクライムものを描かせたら、右に出る者はいません。

エルモア・レナードの小説の映画化を熱望していたタランティーノ監督の夢が実現したのが、1997年に公開された『ジャッキー・ブラウン』で、その原作が、今回紹介する『ラム・パンチ』になります。

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小遣い稼ぎに銃の密売人オーディル・ロビーの運び屋をしていた三流飛行機会社のフライトアテンダント、ジャッキーは、何とかオーディルを捕まえたいATFとFDLEから目をつけられてしまいました。

ATFは財務省アルコール・タバコ・銃器取締局、FDLEはフロリダ州司法局犯罪捜査課。ATFとFDLEに協力すれば、オーディルに殺されますし、協力しなければ刑務所にぶち込まれてしまう状況。

危ない橋を渡って運び屋をするぐらいですから、単なるか弱い女性ではないジャッキーは、ATFとFDLE、そしてオーディルまでをも一杯食わせて、大金を手に入れようとある作戦を練り始めて・・・。

という様々な登場人物の思惑が入り乱れるクライムもの。次々と予想外の出来事が起こり、結末の予想がつかない面白さがある映画です。

『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』と比べると、衝撃度が足りないせいか、タランティーノの作品の中では人気は今一つのようですが、ストーリーが面白いので、ぼくはかなり好きですね。

映画では主人公の名前は「ジャッキー・ブラウン」で、黒人女性ですが、原作では「ジャッキー・バーク」という名前で、白人女性です。

映画のジャッキーを演じているのが『フォクシー・ブラウン』など、1970年代に活躍したパム・グリアーという女優。どうしてもパム・グリアーを起用したかったために、設定が変更されたようです。

その他の点は、映画と小説の内容は大体一緒です。映画が好きな方は原作の小説を、小説が好きな方はぜひ映画の方を観てみてください。

ぼくは『ジャッキー・ブラウン』で忘れられないシーンがあって、ロバート・デ・ニーロが演じるルイス・ガラが、ブリジット・フォンダ演じるオーディルの愛人メラニーに、いらいらさせられるんですよ。

いらいらさせられる気持ちも分かるんですが、その直後、何ともタランティーノ的なそしてエルモア・レナード的な展開になるので、思わず笑わされてしまいました。ちなみに原作でも同じ場面があります。

映画の場面としての方が印象的ですが、ありそうでなかなかない演出で、面白いなあと思いました。これから映画を観る方はぜひ注目を。

作品のあらすじ


ともにデトロイト出身、ムショ暮らしをしていたことが分かって意気投合した、肌がさほど黒くない黒人のオーディル・ロビーと、浅黒い肌の白人ルイス・ガラ。13年前に、誘拐事件を起こした仲間です。

銀行強盗で捕まっていたルイスがムショから出て来ると、オーディルは銃の密売でちょっとした顔になっていました。オーディルは信頼出来る仲間が欲しいと言ってルイスを商売仲間に引き込もうとします。

今は、ムショ仲間に紹介してもらった、マックス・チェリーが経営する保釈金立替会社で、わりと真っ当な取り立ての仕事をしているので、オーディルのやばそうな仕事に関わるべきかどうか迷うルイス。

子分のボーマンが捕まったので、オーディルはマックスの元を訪ねて、保釈の手続きをしてもらいました。ボーマンが刑務所から出て来ると、オーディルは密告されない内にボーマンを消してしまいます。

一方、パームビーチ国際空港では、親友の間柄のATFのレイ・ニコレットとFDLEのファロン・タイラーがバハマ往復便で帰って来るフライトアテンダントのジャッキー・バークを待ち構えていました。

この間捕まえたボーマンという男から、ジャッキーがこっそりと運び屋をしているという情報をつかんだからです。ジャッキーの引き締まった体を見ながら2人は44歳にはとても見えないと言い合います。

タイラーとニコレットがジャッキーを捕まえて荷物検査をしてみると、予想通り大金の入った分厚い封筒が出てきました。2人はろくに数えもしないで、五万ドルほどありそうだとぴたりと言い当てます。

ジャッキーは黙秘を続けますが、2人は封筒をさらに調べました。

「さてさて、そいつは甘味料の”スイートゥン・ロウ”かな、それともこちらがそうじゃないかと思ってるものかな?」
 タイラーのつまんでいるのは、透明なセロファンの袋だった。中には半インチほどの大きさに丸められた白い粉が入っている。それを天井のライトにかざしながら、タイラーは言った。
「これは密売用のブツなのか、それとも自分がラリるためのものなのか。そこが問題だね」
「あたしのものじゃないわよ、それ」ジャッキーは言った。
 事実、そんなものに覚えはなかった。
「ねえ、話を聞いて。本当に……」
「密売用にしては少量だが」ニコレットが言う。「”販売目的の所持”という線はあるな」
「いや、これだけの現金を考慮に入れると」タイラーが言う。「”密売謀議”に問えると思うけどね」
 すっかり悦に入っている二人の男。
 ジャッキーは首を振って言った。「なんなのこれは、いったい」
(67ページ)


拘置所にぶち込まれてしまったジャッキーを迎えに行ったのが、オーディルから保釈金を預かったマックスでした。マックスは、捜査に協力してオーディルを捕まえられれば、自由の身になれると言います。

しかし、オーディルに口封じで殺される懸念を持つジャッキーは拘置所に入れられるのはごめんだが、「もっと敬遠したいのは車のトランクに押し込められることだけど」(119ページ)と言うのでした。

ATFとFDLEに協力すれば、オーディルから狙われ、オーディルを守ろうとすれば、ATFとFDLEに責められて刑務所行きです。

ジャッキーの魅力に惹かれつつあるマックスがキラキラ光るその緑色の目を見つめていると、ジャッキーは「あたしの打つ手、ほかにもいくつかあるかもしれないわよ」(121ページ)と言ったのでした。

オーディルは国外を中心に銃を売りさばいているのですが、儲けたお金のすべてをバハマのフリーポートにある貸し金庫に入れてあります。お金はあるにはありますが、なかなか取りにいけないのでした。

国境を越えて大金を一度に運ぶのは困難ですし、信頼の出来ない相手にお金の運搬を頼むと、そのままどろんされかねません。そこで、信頼出来ると踏んだジャッキーに、少しずつ運搬を頼んでいたのです。

つまり、オーディルにとって、お金を運ぶにはどうしてもジャッキーが必要であり、また同時にATFとFDLEにとっても、オーディルを捕まえるのに、ジャッキーの存在が不可欠という状況なのでした。

そこでジャッキーが考えたのは、ATFとFDLEとオーディルのそれぞれにうまいこといってお金を運び、途中で一杯食わせて、オーディルが貯め込んだ50万ドルを全部奪えないかということなのです。

ジャッキーが家に帰ると「この女が何をしゃべったか、それを聞きだすには、ギリギリの恐怖を味わわせてやらなきゃならねえようだ」(142ページ)と考えるオーディルが、中で待ち構えていました。

何も喋らなかったと言うジャッキーですが、オーディルはジャッキーの体を撫で、ジャッキーを恐がらせてすべてを吐かせようとします。

 次の瞬間、彼女の手に相違ないものがオーディルの太ももにさわった。そこを軽く撫でてから、さらに上に這いのぼってくる。なるほど。いかにも女っぽくおれにとり入ろうとしてやがる。気に入ったぜ。ああ、そこよ、そこだよ、男が感じるのは。と、柔らかい手とは別の、何かしら硬いものが、そこにくいこんだ。
 ジャッキーが言った。「感じる?」
 オーディルは答えた。「ああ、感じるよ」にんまりと笑いたかった。おれは最初から本気じゃねえんだ、おめえもカリカリきなさんな、と匂わさなければ。彼は言った。「ハジキだろう、そこに押しつけてるのは」
 ジャッキーが言った。「そのとおり。これを吹き飛ばされたい? それとも、あたしの体を離してくれる?」(142ページ)


ジャッキーは、オーディルに取引を持ち掛けます。ATFとFDLEと組む振りをして、フリーポートにある大金を全額運んでみせると。

一方、ATFとFDLEにもオーディルがどんな風に商売をしているのか、その証拠をつかませてあげると、取引を持ち掛けて・・・。

はたして、フリーポートに眠る大金を手にするのは誰なのか!?

とまあそんなお話です。ムショを出てから、どうもうまく頭の働かないルイスと、時にとんでもない行動をするオーディルの愛人のメラニーのせいで、次々と予想外の出来事が起こっていってしまいます。

ゲット・ショーティ』のチリ・パーマーも相当にクールなキャラクターでしたが、ジャッキー・バークも勝るとも劣らないシビれるキャラクターで、どんな窮地でも、全く動じないかっこよさがあります。

オーディル、ルイスなど少しずれた悪党たちや、手柄を求め、常に色男ぶっているニコレットとタイラーら法を守る側の人々、そしてジャッキーに恋するマックスなど、個性豊かな面々から目が離せません。

誰が最後に金を手にするのか、二転三転するクライムものの傑作。興味を持った方は、ぜひ読んでみてください。映画もおすすめですよ。

4夜連続エルモア・レナード追悼特集も、次回でいよいよ最終回。明日は、『アウト・オブ・サイト』を紹介する予定です。

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