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新倉朗子訳『完訳 ペロー童話集』

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完訳 ペロー童話集 (岩波文庫)/岩波書店

¥756
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新倉朗子訳『完訳 ペロー童話集』(岩波文庫)を読みました。

一口に童話と言っても、大きく分けて、2つの種類があります。

有名なグリム童話とアンデルセン童話の違いから、そのことについて見ていきましょう。それぞれよく知られている話をあげてみます。

グリム童話は、「赤ずきん」「白雪姫」「ヘンゼルとグレーテル」「ブレーメンの音楽隊」で、アンデルセン童話は、「裸の王様」「人魚姫」「みにくいアヒルの子」「マッチ売りの少女」など。

どれも有名な作品ばかりですが、グリム童話とアンデルセン童話には大きな違いがあるんです。それが何か、お分かりになるでしょうか。

では正解を。グリム童話というのは、グリム兄弟が作った童話なのではなくて、民間に伝わっていたものを集めたものなんです。一方、アンデルセン童話は、アンデルセンが作った童話です。

グリム童話には、何故そんな展開になるのか理解に苦しむ話があったり、またその逆に、極めて教訓的な話があったりもします。まさに玉石混淆で、雑多な感じがあります。

一方、アンデルセンは、ペーソス(悲哀)に満ちた話がとても印象的な童話作家で、ディズニーアニメのイメージがついた現在、「人魚姫」を読むと、ラストの違いにびっくりするだろうと思います。

そんな風に、童話には民間伝承を収集したものと、創作童話という、大きく分けて2つの種類があるんです。

今回紹介する『ペロー童話集』がそのどちらかと言うと、民間伝承を収集したものの方になります。一応シャルル・ペローによるものとされていますが、編者についてはよく分かっていないことも多いです。

『ペロー童話集』は、グリム童話よりも前にフランスでまとめられたもので、「赤ずきん」など、グリム童話と重なる話があるのが、実に興味深いんですよ。そして、かなり大きく内容が違うんです。

「赤ずきん」にネタバレ云々もないと思うので書いてしまいますが、『ペロー童話集』では、赤ずきんちゃんは、あっさり狼に食べられてしまいます。そのままおしまい。ご丁寧にも教訓がつきます。

  教訓
 これでおわかりだろう、おさない子どもたち、
 とりわけ若い娘たち
 美しく姿よく心優しい娘たちが
 誰にでも耳を貸すのはとんだ間違い、
 そのあげく狼に食べられたとしても
 すこしも不思議はない。(179~180ページ)


ぼくは初めて読んだ時、あまりのラストの衝撃に、飲んでたコーヒーを鼻から吹き出しそうになりましたが、こう見ると「赤ずきん」の教訓が、グリム童話よりもはっきりしていますよね。

つまり、狼は実は男性のことを表していて、若き娘たちよ甘い誘惑には気をつけろと、『ペロー童話集』では、そういうお話なわけです。

一方、グリム童話ではみなさんご存知の通り、猟師が登場し、食べられたおばあさんと赤ずきんちゃんの救出劇が描かれていきます。

どうしてそんなバリエーションの違いが生まれたのか、どういう狙いがあって童話は変化していったのか、これは色々考えてみたり、調べてみたりするといいと思います。非常に興味深いですよね。

ドイツで編まれたグリム童話の「赤ずきん」も、ルーツはどうやらフランスにあるようなので、『ペロー童話集』が原典と言えなくもないのですが、『ペロー童話集』もまた伝承に手を加えているようです。

どこまでが伝承そのままで、どこからが手を加えているのか、古い時代の話なだけに、これはなかなかに判断が難しい問題ではあります。

まあ難しい問題はともかく、グリム童話とは少し違ったバリエーションが収録されている童話集なんだなと、そう思ってもらって大丈夫です。それだけに、童話の印象が少し変わっていて面白いですよ。

少し長い韻文(詩の形式で書かれたもの)の物語3話と、短い散文(普通の文章)の物語8話が収録されています。みなさんがご存知の童話も多いはずなので、きっと興味を持ってもらえるはずです。

作品のあらすじ


『完訳 ペロー童話集』には、「韻文による物語」(「グリゼリディス」「ろばの皮」「愚かな願いごと」)、「過ぎし昔の物語ならびに教訓」(「眠れる森の美女」「赤ずきんちゃん」「青ひげ」「ねこ先生または長靴をはいた猫」「仙女たち」「サンドリヨンまたは小さなガラスの靴」「まき毛のリケ」「親指小僧」)の全2編(全11話)が収録されています。

韻文による物語


「グリゼリディス」

国中の人々から愛されている大公(国王)がいました。あらゆる才能に恵まれた大公でしたが、一つだけ欠点がありました。

それは、「すべての女性は不実で裏切り者だ」(20ページ)と思っていたこと。家臣がいくら縁談を進めても、首を縦にふりません。

ところがある時、狩りに出かけて道に迷った大公は、とても美しい羊飼いの娘グリゼリディスと恋に落ちたのでした。結婚した2人は、可愛い子宝にも恵まれ、幸せに暮らしていきます。

ところが、再び大公の心に、女性を信じられないという暗い影が押し寄せ、王妃からすべてのものを奪い、閉じ込めてしまったのです。王妃に揺るがない貞淑さがあるかどうかを試そうというのでした。

大公のひどい仕打ちに、耐え続けるグリゼリディスでしたが・・・。

「ろばの皮」

王妃は病気で亡くなる時、再婚してほしくないという思いから、自分より美しく、賢い女性が現れたら再婚してもよいと言い残しました。

王妃よりも美しく、賢い女性などどこにもいませんでしたが、たった一人だけ見つかったのです。それは、他でもない王女でした。父親から結婚を迫られ、王女は困ってしまいます。

作るのは不可能だと思って要求した「空の色のドレス」と「月のドレス」と「太陽のドレス」も、王は家臣に命じて簡単に作らせてしまいました。

名付け親の仙女に相談した王女は、「ろばの皮」をかぶって醜い姿に変装して、王の元を逃げ出して・・・。

「愚かな願いごと」

貧しい木こりが、自分の人生には何もいいことがなかった、神様は一つも願いを叶えてくれなかったとぼやきます。

すると、雷の火矢を手にしたジュピターが現れ、3つだけ願いを叶えてやろうと言ってくれたので大喜び。早速奥さんと相談して、自分たちが幸せになれる素敵な願いごとを考え始めたのですが・・・。

過ぎし昔の物語ならびに教訓


「眠れる森の美女」

ある国で念願の王女が誕生しましたが、洗礼式に年取った仙女を呼ぶのを忘れてしまっていたのです。

仙女たちがそれぞれ魔法の贈り物をしますが、腹を立てた年取った仙女は、王女はつむが手に刺さって死ぬという呪いを贈ったのでした。

その場にいたみなは震えあがりますが、幸い、まだ1人贈り物をしていない仙女がいました。そこで、なんとか呪いをやわらげ、死ぬのではなく、100年の深い眠りにつくことにしてくれました。

やがて、年取った仙女の呪い通り、成長した王女はつむを手に刺し、深い眠りについて・・・。

「赤ずきんちゃん」

おばあちゃんが病気だというので、ガレット(平たいパンケーキ)とバターの壺を持ってお見舞いに出かけた赤ずきんちゃん。

おばあちゃんの家に行くと、おばあちゃんの様子がいつもと違うので、赤ずきんちゃんは不思議に思います。そこで、おばあちゃんに色々と疑問をぶつけていったのですが・・・。

「青ひげ」

ある所に、金ぴかの四輪馬車を持つ大金持ちの男がいました。ただ、青いひげが生えているため、女性たちからは怖れられています。

それでも、立派な財産の持ち主ですから、由緒正しき家柄の娘との結婚が決まりました。青ひげは新妻に、家中の鍵を渡しますが、下の階の大廊下の奥にある小部屋にだけは入ってはいけないと言います。

好奇心に駆られた新妻が小部屋を覗くと、そこは床一面血で覆われ、何人もの女性の死体が壁にくくりつけられていて・・・。

「ねこ先生または長靴をはいた猫」

粉ひきは亡くなる時に3人の息子にほんのわずかな財産を残しました。長男は粉ひき場、次男はろば、三男は猫をもらいます。

猫なんかもらったって何の役にもたたないと、三男ががっかりしていると、猫はこんなことを言い出したのでした。

「悲しむことなんかありませんよ、ご主人、わたしに袋を一つくださって、やぶの中に入れるような長靴を一足あつらえてくださればそれで十分、そう思っておられるほどつまらない分け前ではないことが、おわかりになりますよ」(194ページ)


そうして長靴をはいた猫は、どこかへ出かけていって・・・。

「仙女たち」

ある所に2人の娘のいる後家(未亡人)がいました。姉娘は母親にそっくりでしたが、妹娘は亡くなった父親にそっくりで、母親は気に食いません。

いつも虐げられていた妹娘は、水を汲みに行った時にみすぼらしい姿の女性を助けてやりました。するとそれは実は仙女で、妹娘は喋るたびに花や宝石が口から出るようにしてもらいます。

その話を聞いた姉娘も、自分にも魔法をかけてもらおうと思って、意気揚々と出かけていったのですが・・・。

「サンドリヨンまたは小さなガラスの靴」

父親が再婚して、継母とその連れ子たちに虐げられるようになった娘は、いつも一休みするのに炉の灰の上に座っていたので、灰っ子(サンドリヨン)と呼ばれていました。

ある時、その国の王子が舞踏会を開くことになり、義理の姉たちは出かけて行きましたが、一人取り残されたサンドリヨンは悲しみのあまり泣き始めます。

するとサンドリヨンの名付け親である仙女がやって来て、素敵な馬車と美しい服を魔法で用意して、舞踏会に行かせてくれて・・・。

「まき毛のリケ」

ある国の王子ニケは、とても醜い姿で生まれてしまいました。

みんなはがっかりしますが、仙女はこの子はとても優れた才能の持ち主になり、誰からも好かれること、そしていちばん愛する人に自分と同じくらいの才智を与えられるのだと言います。

隣の国では、とても美しい娘が生まれましたが、成長するに従って、どうしようもないほど馬鹿であることが明らかになっていきました。

ある仙女は、知恵の方はどうにもならないが、王女が気に入った人を、美しく変える能力を授けてあげましょうと言います。

ある時、醜いけれど才智あふれるニケと、誰よりも美しいけれど中身は空っぽな王女が出会いました。ニケはどこか悲しそうな王女にこう語りかけます。

「美しいことはとても大きな強味で、そのほかのすべてのかわりとなれるほどです。だからこの強味があるかぎり、深い悲しみのたねとなるものがあるとは、わたくしには思えませんが」
「わたくしのように美しくても愚かであるよりは、あなたのように醜くても才智のあるほうが、ずっとましだと思いますわ」
「王女さま、才智がないと思いこまれていることは、才智のあることのなによりの証拠、それに、才智が豊かであればあるほど、才智に欠けていると思いがちなのが、この美点の本性なのです」(230ページ)


ニケは自分と結婚してくれることを条件に、王女に才智を与えてやりました。しかし、才智を手に入れた王女は一年後のニケとの結婚を快く思わないようになってしまい・・・。

「親指小僧」

ある所に7人の子供のいる木こりの夫婦がいました。とても貧しい暮らしをしていたので、飢饉の時に両親はついに子供たちを捨ててしまうことを決めます。

ところが、親指ほどの大きさで生まれ、兄弟たちにいじめられて育った末っ子の親指小僧は両親のその話をこっそり聞いていたのでした。

親指小僧は機転を利かせて兄弟たちを救いますが、やがて、またしても両親に捨てられてしまいます。そして兄弟たちが迷い込んだのは、人食い鬼の家で・・・。

とまあそんな全2編(全11話)が収録されています。今回読んでぼくが非常に面白く感じたのは、まああらすじ紹介の分量でも分かると思いますけれど、「まき毛のニケ」でした。

知恵はあるけれど醜い王子ニケと、美しいけれど頭の中身が空っぽな王女の物語。それぞれが仙女によって、知恵や美しさを与えられる能力を授かったことになっていましたよね。

じゃあ王女がニケに美しさを与えて終わりという、そういう単純な話かというと、実はそうではないんです。これが非常に深い話なんですよ。この話の教訓にはこう書かれています。

  教訓
 ここに書かれているのは、
 作り話というよりは真実そのもの。
 愛するものにあってはすべてが美しく、
 愛するものすべてひらめきを持つ。(237ページ)


まさにこの教訓通りのことが書かれた物語になっていて、非常に面白かったです。あまり知られていない童話だとは思いますが、ぜひ「まき毛のニケ」に注目してみてください。

おすすめの関連作品


「まき毛のニケ」に関連して、本当の美しさとは何かを描いたラブストーリーの映画を1本紹介しましょう。ファレリー兄弟監督の『愛しのローズマリー』です。

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ジャック・ブラック演じる男は、女性の外見を見てナンパしては失敗してばかり。ところがある時、催眠術をかけられたことによって、女性の内面だけが見えるようになってしまいます。

そして出会ったのが、グウィネス・パルトロー演じるローズマリーという絶世の美女。

猛烈なアタックをして、ついにローズマリーと付き合うことになったのですが、実はローズマリーの本当の見た目は140キロほどの超デブ。やがて催眠術が解ける時が来てしまい・・・。

ファレリー兄弟監督作品はどれも面白いですが、結構下品な感じのものも多いので、『愛しのローズマリー』が一番おすすめです。機会があれば、こちらもぜひ観てみてください。

明日は、「ねこ先生または長靴をはいた猫」を元にした戯曲、ルードウィヒ・ティーク『長靴をはいた牡猫』を紹介する予定なので、お楽しみに。

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